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それは新緑の茂ゆる季節の事だった。
祭囃子や太鼓の鈍い音がそこら中で聞こえ始めた夏祭り___。
まだこの頃、幼かったコハルは狐のお面を、白銀の髪の上から被って森の中を歩いていた。
その後に小さく後を付いていく少女が一人。
彼女はリル。早くに両親を亡くしており、コハルの両親によって有明家に迎え入れられた。
コハル自身もリルを気に入った様子で、実の妹のように可愛がっている。
特に何も話さず、無言で先を進んでいると小さな光が二人の目の前に現れる。
儚く、ぼんやりと輝く『それ』はリルの掌に止まる。
「……」
「リル、それは蛍って言うんだよ。仲間を呼ぶ為に発光したり、求愛をしてその後交尾をするんだよ」
「……」
リルは終始無言の侭だった。
最早、義理の姉がこんなにも聡明に現実味の帯びた話をするとは、なんて思ってはいない。
純粋に光る蛍から目を離さずに、興味深そうに見入っているからだ。
「聞いてる?」
「人間からみた蛍は、消えかけの存在です」
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