第1章

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お坊様は船に乗り、海を鎮めるために仏となり、母はその直後、お坊様との子供ができていました。それが私です。美弥でした。 「…………」 仮音は初めて黙りました。まだ、話は続きます。お坊様のいなくなったあと、その後任として、髭面の坊主がやってきました。彼の顛末は、代理の男が話したとおりです。 「…………貴女が、復讐する理由が見えてこない。後任の坊主は」 私はフフと笑いました。そうです。後任の坊主はダメな奴でしたけれど、それが彼の全てでしょうか? 本当に彼が横暴な坊主だったのでしょうか? 答えは、違います。 彼は、嘘つきでした。毎晩、毎晩、お経を唱え、村に忍び寄る悪意から村人を守っていましたが、そのことを村人に話してしまえば、きっと逆に不安にさせてしまうだろう。わざと悪人のふりをすることで、彼らが犠牲を出さないで、自分達で生きていけるように願っていたとしたら? 「そんなのは、結果だよ。その人はもういないんだから、いくらでも都合のいい話を作ることはできる」 なら、どうして、私は、こうして育っているのですか? 唯一本音をさらけ出せた相手、前任の心優しいお坊様の置き土産、母だけだったとしたら? その娘をこっそり育ていたら? 「貴女も、坊主の本心を知っていた?」 知っていました。母は、私を出産して、物心つくころには亡くなっていましたから、坊主に育てられましたけれど、彼は私の前でも本心を隠していました。嘘を吐きは、死ぬまで嘘つきでした。私をこっそり育てていたことを、誰にも話していませんでした。 私も、母にそっくりで男に従う性分でしたから、養父の言いつけをしっかり守り、全ての真実を知ったのは、彼の残した日記を読んだあとでした。 養父は、ずっと嘘を吐き続けていた。私の母に恋をしてしまったこと、私を母に重ねてしまったこと、村人達に粗暴な態度をとっていたこと、日記には彼の本心が全て書かれいました。 醜く、汚い自分になれば、私も愛想をつかしていくことに期待して、こんなことをやっていたと、日記に書かれ、彼は村人達に惨殺され、海に沈められました。 叶わない恋をしてしまった後悔の中で彼は死んでいき、私は復讐を決意しました。身分を偽り、村の外からやってきた孤児のふりをして、好きでもない夫と結婚し、この村にまつわる過去を全て調べ上げた頃には私は、人間ではなくなっていました。 復讐に燃える私の魂は、
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