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異質な力を宿していました。全てを枯渇させる力です。おそらく、怪異と化した彼から受け継いだのかもしれません。彼とは血の繋がりはなかったですけれど、それでも目には見えない繋がりがありました。
「さぁ、全て、話しました。斬って、この物語に終幕を下ろしてください」
もう一度、頭を下げましたが、仮音はキッと日本刀の切っ先を別の方向に向け、一閃、私達がいた建物が切り裂かれ、そこにそれは現れました。
「貴女には、あれを残して死のうとするの?」
巨人でした。数多くの人間の怨念と恐怖を織り交ぜた巨人が私達を見下ろしていた。
「…………あれ、は?」
なんなのですかと聞きました。
「海坊主」
仮音はそれだけ答え、日本刀を構えます。
「貴女の異質な力から生まれた化け物。この村に蔓延る呪い」
海坊主と呼ばれた巨人は、ゆっくりとこちらに向かってきています。
「私はいまから、あれを斬る」
仮音の言葉が私の耳を通り過ぎていきました。
「貴女は、最後までちゃんと見届けて」
それは、その意味は、
「私を斬ってはくれないのですか?」
仮音は、私を斬ってくれないかもしれないと不安でいっぱいになった。こんなになった私をいつか殺してくれる人が現れると思ったのに、期待してたのに、仮音は私を殺してくれない? 斬ってくれない? なぜ、どうして?
「呪いは喪失だから、貴女には、失った物を抱えて、最後まで生きて、そして死んでいけ」
冷たく言い放ち、仮音は地面を蹴って、海坊主に挑み、切り裂いた。
「……あ、ああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
頭をかきむしり、涙を流しました。殺してほしかった。復讐をとげた私には、もう何も残っていません。あとは殺してくれればよかったのに、
「───────そうか」
私は笑いました。もう、いいや。海坊主が仮音に切り裂かされていきます。私はそろりと立ち上がり、まっすぐ海に進みました。
優しいお坊様も、母も、養父も、村人も、全員、海に帰って逝った、なら、私もそこに向かうべきでしょう。
ザプザプと海水が身体に染みます。とても冷たく、苦しいです。海坊主が、私を見ました。彼に瞳はあるかどうかはわかりませんが、ジッとこちらを見ている気がしました。
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