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「──────坊主様が出た」
集会所の席で、村長の声が響く、その声はけっして大きなものではなかったけれど、後ろのほうで控えていた私にもよく聞こえました。
坊主様、その言葉に集まっていた男衆がザワザワと囁き、言葉をかわしていきます。私達が住む村は、漁業を中心に生計をたてています。なにぶん、田舎の古い村なので、村人、全員が手と手をとらなければならないほど、貧しい村でした。
「村長、坊主様が出たということは、誰かが『戒律』を破り、家に招き入れたのか?」
「バカ、この村で、それを破ることがどれだけ恐ろしいことか知らないわけがないだろう」
「じゃあ、誰がしたというのだ。坊主様は現れた。海は荒れている。きっと生け贄を求めているんだ」
「わかるか、そんなこと、他の村の連中とも話をしている最中だ。見つけたらすぐに坊主様に送り出す」
「聞いた話によると、隣の村の若い男衆が船を出して、坊主様の怒りをかったと聞いたぞ。それではないか?」
「眉唾だ。そのことと今回の一件は関係ない。よけいなことを口出しするな」
「静粛に」
村長の一声で、村の男衆達がいっせいに口を閉じました。
「このことは、詳しいことがわかりしだい話す。それまで漁には出るな。坊主様は花嫁を求めておられる。最悪のことも考えておけ」
その一言で解散となりました。ぞろぞろと自分の家に帰って行く、後ろ姿を眺めていてもあちこちで坊主様のことが囁かれています。
坊主様を招き入れたのは誰だ? 花嫁は誰にする? もしも見つからなければ、俺達は坊主様の怒りを買うのか? これは呪いではないのか?
「──────美弥(ミヤ)」
村長が私の名を呼びました。
「なんでしょうか」
「傷心なお前には、酷なことだと思うが、これも村を守るためだ。我慢してくれ。お前の夫は」
「よいのです。村長」
私は言います。はっきりと言います。
「そうか、そうか、ところでな、美弥」村長の手が私の肩に触れました。下心にくすぶる笑みが私を見つめました。断ることはできないようです。
「どうぞ」
お酒を注ぎ。村長に手渡しました。だいぶ、お酒が回ったのか村長の頬は赤く染まっていました。
「美弥、美弥、お前も寂しかろう? 儂もなのだ。なぁ、美弥?」
スルリと着物の上から、村長の手が私の身体を抱きしめました。抵抗はしません。できません。
「なぁ、美弥、お前が坊主」
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