第1章

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嫁、花嫁。もう、男は坊主でもなんでもありませんでした。男は村に住み着く害虫でした。寄生虫でした。村人達は恐れます。あの男に今度は何を奪われるのだろう。今度は何をさせられるのだろう。 貧しい村です。皆で力を合わせねば共倒れしてしまいます。死を乗り越え、飢餓を克服し、お坊様を見殺しにした自分達への罰なのだとしてもあまりにも重すぎる。生きたかった、死にたくなかったのです。 仕方ないこと、仕方ないこと、仕方ないこと、村人は繰り返し、繰り返し自分に言い聞かせました。我慢ですと、これも試練なのですと、何度も、何度も。 「そして、その我慢も限界を迎えた」 男は要求します。嫁を寄越せ、花嫁を寄越せと村人達に要求しました。 「もう、殺すしかないんじゃないか?」 「しかし、また、」 「どうせ、こんな田舎に客なんて来ない。坊主は病気か何かで死んだことにすれば」 「皆で口裏を合わせよう。私達はなにも知らない。坊主は病気で死んだ」 「俺達はずっと耐えてたんだ。あの坊主だってさんざん甘い汁を啜ったなら本望だろう」 「どうせ、あの坊主のことだ。修行に耐えかねて逃げ出したか、破門されたのだ。当然の末路だ」 「殺せ」 「殺せ、殺せ」 「殺せ、殺せ、殺せ」 「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ」 「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ」 「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ」 「殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、海に沈めて殺してしまえ。二度とあがってこないように、重りをくくりつけて殺してしまえ、村のためだ」 仕方ないこと、仕方ないこと、村人達は何度もその言葉を繰り返しました。呪いのように、誰も裏切らないように何度も言い合いました。 「仕方ないことだ。殺さなければ、私達が殺されてしまう。仕方ないことなんだ」 坊主を殺さなければ、死ぬだけです。
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