第1章

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決行されたのは、月のない夜でした。酒をたらふく飲ませ、よい潰した坊主を皆の手で殴りました。海に沈めて殺してしまっても泳いで戻ってくるかもしれません。 手足を縛り付け、身動きを封じ込め、村人達はそれぞれが持った棍棒で一回、殴ります。骨を折り、肉を裂き、内臓を潰し、頭蓋を砕き、胃を貫き、顎を外し、鼻を曲げ、耳を叩き、目玉を抉り、顔を誰かわからないほど、叩きつけ、泳げないように両手足を折りました。 坊主は途中で目覚め、苦痛に泣き叫びながら言いました。 「許さないっ!! 祟ってやる。呪ってやる。恨んでやる。貴様らが破滅するまで俺は、絶対にお前を許さない。花嫁だってもらい受ける。お前から全てを奪う。海に、この広い海にお前達を沈めてやるっ!!」 顎を砕かれたのに、男は叫び続けました。痛みで頭がおかしくなったと言われてもおかしくありませんが、男の叫び声は、村人達の無情とも呼べる暴行が遮りました。もう、声すら聞きたくないと遠まわしに伝えるように村人達は男を殴ります。誰かが言ったわけではありません、合図があったわけでもないです。ただ、途中でやめてしまえば、自分達のやっていることがとても恐ろしいことだと認めてしまうのが怖かったのです。もしもここで誰かがやめようなどと言い出せば、標的にされてしまうかもしれない、恐怖は伝染し、村人達を真っ黒に染めました。 わかりやすい悪役がいれば、もっと違ったのかもしれません。誰もが悪い、善人なんてここにはいない、それを止める正義もない。あるのは歪んだ結束だけ、裏切りを許さない、醜い関係、少しでも違う行動をとれば、それはもう仲間ではない、敵でした。 そこには人はいませんでした。人の皮を被った鬼がいたのです。罪悪感から逃避するための言い訳を重ねて、罪を重ねる鬼達が、そこにはいました。 「俺達は、間違ってなんかいなかった。あいつを殺さなければ、俺達は今も苦しめられていた。俺達は間違っていない」 と代理の男は言いますが、私にはどうでもいいことでした。別に私は、懺悔してほしいわけじゃありません。 「まだ、その話には続きがあるんですよね。坊主様なんて、大仰な名前をつける意味がわからないじゃないですか」 「お前、何がしたいんだ。まさか」 「私は、ただ、知りたいだけですよ。どうせもうすぐ死ぬのなら、冥途の土産に話の一つくらい持って逝きたいじゃないですか」
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