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いつまでも少女のままではいられない
夏休みが終わり、二学期に入って文化祭が終わったら、3年生は引退する。
下級生が少ないからと長々と居座ったらっきょ氏は、名残惜しげに部室を見回し、隣にいた加奈江に言い置いた。
「尾上のこと、よろしく頼むね。あいつは芸術家肌のようだけど、実はとっても普通な人間だ。皆が言うほど大胆でもない。それは君が一番良くわかっているだろうけど」
「言うほど知ってはいないけれど……。でもわかる気がします」
加奈江は言った。
「皆が近づけないという時の彼は自然体なだけなのに、そうは見えていないということですよね」
目をくりくりさせて、らっきょ氏は驚いたような、感心したような目で加奈江を見た。
「……あのとげとげしい状態の彼を見ても動じないんだから、君もすごいもんだよ」
じゃあ、と手を挙げて、らっきょ氏は去っていった。
らっきょ氏が「すごい」と言う意味を、加奈江も取り違えるようなバカはしない。
文化祭と前後として、彼は展示会用の制作に取りかかっていた。普段は師匠の教室で作成するものを、最近では学校で書くようになっていたから。
一旦作品に取り組み出すと、政は途端に近寄りがたい存在になる。迂闊に声をかけられないくらいだった。
その彼と同じ室内にいる時、加奈江は政を、確かに少しは気難しいだろうけれど、だからといってこわいとも思えなかった。
少し離れた場所から様子を見守る。
心の中の荒波を、受け取るように、共に息をするように座って、待つ時間は一瞬でも、彼と結びついて一体になっているような気がした。
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