追い風1000km・2 広島に雨はそぼ降る

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どうしてこんなことになっちまったんだろう。 一馬(かずま)はげんなりしながら立っている。 隣にはちっとも落ち着きのない弟、三先(みさき)がいた。 ふたりが住む所は東京。 薄曇りのどんよりとした日曜の今、いる場所は広島空港。 ふたりが乗ってきた航空機は747。 搭乗機から降りてすぐのことだった、とんとんと係員に肩をたたかれ、人の群れから外れたところへ連れていかれたのは。 一馬はちらりと後ろを見ると、乗客が窓にへばりついている。 普段の広島空港の風景は知らない、多分、いつもはもっと人の流れはスムーズで足早に各自目的地へ向かうはず。 けど、今日は特別な日だ。 来年、つまり2014年3月に、日本の航空会社から大型旅客機の747が全て姿を消すことになっていた。 母が勤める会社では早々と2011年に運航を取り止め、細々と少ないながらも運航を続けていたもうひとつの会社もとうとう……というわけだ。 運航終了にむけて、各種イベントを計画しているこの会社は、かつて乗り入れていた地へ、一日1便限定でフライトスケジュールを組んだ。 名付けて里帰りフライト。 ボーディングブリッジには人があふれ、たまたま乗り合わせた人も、選んで乗った人も、降りる乗客は串刺し団子のように連なって渋滞している。 そして皆、一方向を見、一様にカメラを向け、手を振っていた。 彼らに加われない三先は明らかに不機嫌そうだ。 ぼくもあっちへ行きたい、と兄の服の縁をつかんでぶんぶんと振っている。 こいつと歩くと、いつも声を掛けられるんだ。 兄弟の目の前には警察が、後ろには警備の人間が立っている 一馬は眉の間に歳に似合わない皺を刻んだ。
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