第1章

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そして、 午後の業務開始前、辻田が遅れて工場に戻ってきた。 とても、荒々しい歩き方で、ムジン服も途中までしかファスナーをあげておらず、 「おー!俺、クビだってよぉ!!」 と、他の工員に怒ったように伝えていた。 「……今、言われたのか?」 「辻田だけ?」 ロール印刷だけでなく、カッティングやシャーディングの社員達も、大声を出した辻田に注目している。 「ロール印刷からは、俺と溝田だって!」 その声に、 検査室のパートさん達もわざわざ部屋から出てきてしまっていた。 「……何で、山村じゃねぇの?」 ロール印刷の男性社員も、 検査室のパートさん達も、 一斉に隅で作業していた私に視線を注ぎ、 その視線だけで、十回分くらい殺傷に値すると思った。 その疑問。 私も抱えてますけど。 「やっぱり、朴のチカラじゃねぇ?」 そう、誰かが漏らすと、 更にパートさん達の視線が鋭くなった。 「あー……確かに朴さん、ネクラの山村さんを良く口説いてたよねぇ」 古賀まり子の言葉に、 みんなザワツキだす。 「でも、なんで溝田さん? 他にも男性社員いるのにさ」 もう、ここまで騒ぎ出したら止まらないのが女。 「溝田さんイケメンだから、課長とか目障りだったんだよ!」 あり得ない解雇理由を噂しだす。 「あっ!!ほら、怪我して労災使ったから?!」 「マジで??そんな理由??」 その騒ぎを一瞬で鎮めたのは、 「……あっ!」 「お疲れ様です」 遅れて工場に入ってきた、 足を引きずる美男子、溝田さんだった。
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