双子の憂鬱

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間違えた。 俺はきっと生まれてくる場所を間違えたんだ。 だからこんなに辛い思いをしているんだ。誰だよ、間違えて俺のことをこの家の息子にしたのは。 「恭介、そろそろ時間だよ。行かないと。」 「ああ、響一は行かなくていいのかよ。」 「俺の方が説明するの得意だから。そういう処理は任せて。」 「ごめんな、口下手で。」 「いいんだよ。俺の方が早く生まれたんだから。」 「お前それ言うけどさ、順番は関係ないだろ。一緒に腹の中にいたんだから。」「そうだね、ごめんごめん。」 響一は俺の双子の兄だ。見た目は俺の方が少しだけ大人っぽいと言われる。目元のほくろに色気を感じると、響一はよく言ってくれる。俺はそれがとても嬉しかった。 俺は響一に、昔から恋をしていた。 響一もそれに気づいていた。でも響一は俺の気持ちに応えてはくれなかった。それはそれは可愛らしい彼女がいた。俺の気持ちは響一の彼女が部屋に来る度に打ちのめされて、二人の甘い振動が部屋の壁から伝わる度に俺の気持ちはずたずたに崩れていった。 それでも響一は、体に触るのだけは何故か許してくれた。手と腕とふくらはぎと、それから首。そこだけは許してくれた。耳は許してくれなかった。 両親が家にいる時間をあえて狙った響一は、何故かその時間だけ俺が触ることを許してくれた。そのスリルの味をいつしか俺はむさぼるようになっていた。
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