SmileySmile

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貴刀ビルの十五階から外を眺めると、見下ろした地上はオフィス街とあって五月のせっかくの新緑が乏しい。 見上げた空は雲一つなく青を晒している。 正午をすぎて、太陽が真上近くにあり、地上まで晴れ晴れと明るい。 窓越しだから体感しているわけではないが、風から冷たさが抜けた気配だ。 「紘斗、叫びたい感じしない?」 姫良は窓の外に向けていた目を、正面に座った紘斗に移した。 紘斗はおにぎりをつかんだ手を止め、いきなりなんだ? とばかりに眉をひそめる。 「だって、もったいない。お休みの日でお天気もいいのに仕事だなんて。だからせめて、気持ちいいーっ、って叫んだら爽快かなって思って」 「帰りたいんなら帰っていい。友だちとどこか――」 「そういう意味じゃない。それに、仕事を放りだすつもりはないから」 取りようによっては侮辱的なことを吐いた紘斗を、姫良は不満たっぷりにさえぎった。
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