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こちらもこちらで葵の怒りを気にもとめずに、俺へと視線を流す。
態々体を前に倒して、興味津々といった感じ。やはり、俺は騙されたのだろうか。
葵に言われた言葉を掻い摘んで話すと、琥太は呆れ顔で深い溜息を吐く。
どうやら葵の周りでは溜息を吐くのが習慣化している人間が多いようだ。
「やっぱり嘘ついてんじゃねえかよ。まともなこと言えねえのかよ」
言われて、鞄から可愛らしい弁当袋を取り出していた葵は、露骨に不機嫌な顔をする。
訂正しよう。よく見たら、ピンクに白くて小さな六芒星が散らばっている。全く可愛くない弁当袋である。
「心外すぎる。いっつもまともじゃん」
「毎朝知らねえオッサンを地球外生命体扱いして、罵倒浴びせられてる奴が何言ってんだか」
「そ、そんな事やってるのきみ……?」
とんでもない話を琥太がさらりと口にしたので、思わず口を挟んでしまった。
知人のオッサンにならまだしも、知らないオッサンに何をやってるんだ。
問うと葵は素早く視線を逸すと目尻を下げ口角を上げ、怖い顔で琥太を宥める。
「やだなあ。琥太くん。誰と見間違ってんの」
「お前以上に変な奴なんか見たことねえ俺が誰と見間違えるって?」
喧嘩腰の彼に、葵も笑みを繕うのを止めたようだった。
一瞬にして無表情になる。
「どんだけ狭い世界で生きてるんだよ。世の中には脱皮したり野獣になったり生き返ったり他人と入れ替わったりする人間が山ほどいるっていうのに」
「お前は現実と虚構の区別もつかねえのか」
琥太は葵の揺るぎ無い瞳を見据え、そう鼻で笑った。
「これだから否定派は。何でもかんでもプラズマで論破できると思ったら大間違いだよ」
「そんな話をいつ俺がしたんだよ。お前の言うプラズマ説って人間にも使えんのかよ意味分かんねえよガメラかよ」
「ガメラだって!」
大きく声を荒らげた葵が勢い良く椅子を下げながら立ち上がったので、床と擦れて耳障りな音が教室に響いた。
昼休みの喧騒でもそれは掻き消せない。
どうしてガメラで葵の興奮度が増したのか分からなかったが、このまま行くと確実に殴り合いに発展すると思った。
ここは止めに入るべきである。
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