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どうせ準備室には行くからと日誌の受け取りを願い出てみたが、あっさり断られた。そんな事をしたら担任に怒られるという。
確かにそうだが、出来れば共に向かうことは避けたかった。だが俺は、当たり前のように横を歩き始めた彼に何か言えるはずもなく、とぼとぼとワックスの剥げかけた廊下を進むしかなかった。
彼よりも俺のほうが身長は拳一個分高く、彼の長い睫毛が程よく日焼けした肌に影を落とすのがよく見えた。
中庭に何かを探すように窓から外へ視線を投げている。雀が囀りながら飛び去るのを目で追っていた。
俺はすれ違う生徒に挨拶を返しながら、妙な息苦しさに首元を緩める。
今日は紺と白のストライプ柄のタイで、元カノからの誕生日プレゼントだった。
捨てるのも惜しいので有り難く使わせて頂いている。
視線を感じてついと右を見ると彼がこちらを見ていた。相変わらず口元は緩んでいる。
「どうですか? 学校。慣れました?」
「まあ……少しは」
慣れたのだろうか? そんな事を考える余裕すら無かったように思える。
「近藤先生は、環境に興味とかってあるんですか?」
興味? あるわけがないだろう。そんな本音は飲み込んで、代わりに適当な言葉を幾らか見繕う。
「まあ、人並みには。地球温暖化とか、海面上昇とか。最近じゃゲリラ豪雨とか?」
何気なく彼とは反対の窓へと目を向ける。近くの山の深緑に、濃い雲が覆い被さってきている。あの辺りは雨が降っているんだろうか。
「うんうん。当たり障りのない答えですね」
「え?」
思いも掛けない辛辣な返しに、肝が冷えた。俺の警戒心が更に高まる。彼はそんな俺の気を知ってか知らずか、独りよがりに会話を続ける。
「じゃあオカルトには?」
「オカルト?」
陰気臭い四文字に自ずと眉間に皺が寄る。どうやら彼はそういうものに興味があるらしい。少し興奮した様子で順に指を立て始める。
「UFOとか、UMAとか。超能力とか。パラレル系とか。幽霊とか。ざっくりいうとそんなとこです。興味、ありませんか?」
彼は俺の顔を覗き込むように、ぐっと顔を近づけてくる。
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