二章、ハンバーグを食べる

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何か只ならぬ気配を感じ、身を震わせるように目を覚ました。嫌な目覚め方だった。 何度か瞼を瞬かせる。 ああ。またやってしまった。いつの間に眠ったのだろう。 俯いたまま、ぼんやりと自分のスーツ姿に自嘲的な笑みを落とす。右太腿辺りにシミが出来ていた。それは昼間溢してしまった珈琲のシミ跡だ。 最近は何かと時間に追われて充分な睡眠時間を確保するのが難しかった。こうやって帰宅途中に居眠ってしまう事もしばしばだ。 降り過ごした事は無いからと余裕げに頭を持ち上げたのだが、俺は情けなくも妙な声を出しながら驚くのだった。寝過ごした訳ではない。 そこは気だるさ漂う夜半のバス車内などではなかったのだ。 自分が座っているのは、路上だ。 鉄板で覆われているわけでもなく生ぬるい風に吹き曝されるだけの硬質な地面の上である。 よく考えれば周囲も暗過ぎで、着ているスーツの色も紺なのか黒だったか思い出さなければ分からない程、色濃くなっていた。 それでも珈琲のシミを視認出来たのは、頭上から見下げる古びた電灯が俺を照らしているからだ。 どうして。なぜ俺はこんなとこに座っている? 只々困惑した。 レンガ調のブロックが敷き詰められた歩行者専用道路。 向かいには植え込みがあって、近くに生えた電灯がぼんやりと葉葉を白ませている。 奥には赤い閃光を発した車が止まり、側にはヘルメットを被った人間が彷徨いていた。この場所。見覚えのあるような、無いような。 「センセ、おはよー」 間近に声がして、驚きながら右に素早く首を振った。見知った男子生徒がにっこりと笑って俺を見ている。 自分が実習で割り当てられた二年一組の生徒だ。なぜここに? 「あれ……反応が薄い。ボケっとしてる? もしかしてヤバいとこ打った? え! さっき救急隊員の人大丈夫って言ったよね?」 彼が慌てふためき始めると、今度は左から別の声が降ってきた。みぞおち辺りが震えるような低い声だ。 「大丈夫なんじゃねえの? それより、もう帰りてえんだけど」 見ると、これまた見知った男子生徒が気怠げに立っていた。 お洒落に切り揃えた髪を指で摘みながらボヤいている。
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