一章、肉じゃがを食らう

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最近の若者は何を考えているのか、よく分からない。 それが、教育実習生として母校で一週間を過ごしてみての感想だった。 いや、年齢相応の、今時の高校生が校舎内に溢れ返っているのはよく分かっている。見れば分かる。 けれども、妙なクラスを割り当てられた俺にとっては、そう思うよりなかったのだ。 俺は通りがかった女子生徒の制服から透けた黒い下着を盗み見て、憂鬱な気分を紛らわそうとしていた。 この実習にはこれくらいしか楽しみがなかったからだ。 だがそれもほんの僅かな暇でしかない。気分転換に一服する程度だ。だが煙草とかいう金のかかるものを飲むよりも断然よかった。 教室に消えていった彼女の姿を名残惜しく瞼の裏に焼き付けながら、何気ない所作で目の前の窓を施錠する。 こんなとこで時間を無為に潰している暇はない。早いとこ気持ちを切り替えて、実習日誌に取り掛からなければまた睡眠時間が削れる。 と思ったのだが、出鼻を挫かれるとはまさにこういう事なのだろう。 一番会いたくない奴が振り返ればそこにいた。恐いくらいに満面の笑みを浮かべている。 まさか女子高生を盗み見ていたのがバレたのだろうかと冷や汗を掻いた。 「……なにか用かな」 俺は動揺を悟られまいと、持っていたファイルなんかを胸元に抱え込みながら同じ様に笑みを湛えた。 「いや、ちょっと。近藤先生自身の口から、あの事件の話を聞いておきたいなあって」 「あの事件?」 「そうです。あの事件ですよ」 事件? 事故すら経験した事ない俺が語れる事件ってなんだろう。 彼は丁寧に並べ立てられた顔のパーツを慣れたように動かして肯定してみせるが、意味がよく分からない俺は不細工な顔で困惑してみせるだけだ。 そんな俺の顔を見て、何故か彼は尚頬を緩める。笑って言うのだ。 「えっと、池田屋事件についてなんですけど」 聞き慣れた言葉の羅列に思わず、頬が引き攣る。 彼はそれを気にすることもなく言葉を続ける。 「貴重なお話が聞けるかなって思って」 俺は首後ろに手を回して意味もなく肌を擦った。 「申し訳ないんだけど、俺の名前は近藤勇じゃなくて、勇志だからね。近藤勇志〈こんどういさし〉」 「知ってます」 即答されて何故か俺がたじろいだ。
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