一章、肉じゃがを食らう

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四つも年下の高校生に対して何をここまで怯えているのかと、我ながらにいつも馬鹿らしく思う。 それでもホッと安堵せずにはいられないのだ。 俺は一体彼の何を恐れているのだろう。 葵が日誌の今日の出来事の欄横に上手に蝶を模写していたので、それを取り敢えず褒めておいた。手元に戻った日誌に書かれた俺の字を見て、彼は礼を言う。 「ありがとうございます。やっと帰れる」 「何やってんの」 嬉しそうにした葵に声を掛けた男子生徒がいた。 お洒落に切り纏めた髪はマッシュボブというのか高校生らしくなく身長も体格も良いので、制服を着ていなければ同い年くらいに思うだろう。 制服の着こなしは緩くも堅くもないが、目つきと口調が少々鋭く、何処か他人を見下したような態度を取る。 この彼も葵と同じ環境学科で、俺が二番目に苦手な生徒だった。 薄っぺらい鞄を肩にかけているが、彼にとってそれは装飾品のようなものでしかないのだろう。ストラップもミサンガも人形も何一つついていない。そのままだ。その簡素さは性格由来のものだろう。 「あ、琥太〈こた〉くん。帰るの?」 「葵、日直か。お疲れー。お先にー」 葵の言葉に被せるようにして一方的に言うと、彼、琥太はさっさと歩き去ろうとする。ここまで、彼らが特別仲が良いようには見えなかった。 「待ってよ、一緒に帰ろうよ」 「お前、ぜってえ涼実のとこで無駄話すんじゃん。俺、帰るから」 呼び止めようとした友人に、そう素っ気なく返して先に消えていった。もうちょっと言い方ってものがあるだろうに。 俺は傷ついているだろう葵に何か言葉を掛けるべきかと思い悩んだが、彼の表情を見てその必要はないと悟った。 葵は両頬を持ち上げて、何故か笑っている。 そこで漸く俺は気づく。 彼が何を考えているのか分からないのが、俺はどうしようもなく恐いのだ。
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