第1章 春が来た!

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「ああ、やっぱりいる。」 さっきから、 松野が前の車両の辺りを、 チラチラ見ていたのに気づいてた。 「誰か探してるのか?」 まあ、誰を探してるのかも 見当ついてたけど、 探すたびに俺につかまって、 精一杯に伸び上がるのが、 面白かったから、 ずっと気づかない振りしてた。 「そっち、行ってみるか?」 「うん」 電車の中は、 それほど込み合っていない。 ゆっくり移動すれば、 何とかなりそうだった。 ほら、めっちゃ嬉しそう。 顔、緩んでるぞお前。 松野が急に俺の後ろにまわる。 「おい」 わかったから、 引っ付いて俺の後ろに隠れるな。 「いた」 意中の彼を見つけた松野は、 俺のことなんか忘れて、 前のめりになった。 松野の視線の先に、 うちの学校の新入生らしき 男女二人がいる。   「何だ。カップルじゃん」 不用意に口にして後悔した。 松野が自信なさげにうつむいた。 もしかして、 松野の好きなやつって男のほう? まずい。 失恋決定じゃん? どんなやつ? 一応、気にする。 これとして特になし。 普通の男。 「もっとあっちへ行く?」 「行けば?」 「はあ?何だよそれ」 「ねえ、藤吾どう思う? やっぱ付き合ってるかな?あの二人」 あの二人?といわれて、 初めて女のほうを見た。 俺の位置から人の頭が邪魔で、 横にずれなくてはいけなかったから。 「ああっ」 俺は、言葉を失った。 ただ綺麗なんてもんじゃない。 まっすぐな黒い髪、 切れ長の目、ホント美人。 姿もさることながら、 全体の雰囲気で、 近寄るなオーラーを発していた。 別格だろ、あれ。
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