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進路
加奈江が政の字に心引かれたのは中学3年生の時、秋の展示会でのこと、あの日から3年を数えたふたりは、高校の最上級生となっていた。
進学・就職の如何を問わず、同級生は皆、今後の進路を決めなくてはならない。
進路は大学進学を、進学先は付属の大学を希望していたふたりは、今年も同じクラスだった。
政は学校には残らないものと思っていた加奈江は驚いた。
「何故」と問うと、政は答えた。
「男だから。一応、何があるかわからないから、学歴だけは持っておかないと」と言う。
らしくない、と言うと、そうか、と返ってきた。
「尾上君は、書で身を立てるのでしょう?」
ふたりはまだお互いを名字で呼び合う。
「いずれはね」
政は答えた。
「でも、俺はまだ学生で、未成年だから。どうしたら良いかわからないというのが本音なんだ」
それは――その通りだ。
なりは大人でも、実社会に出たことを考えると、私たちはまだまだ子供だ。
来年、再来年、また次の年……。
私は、彼は、どうなっているのだろう。
政が、スーツを着て満員電車に揺られるサラリーマン姿になっているのが想像できないくらい、自分が社会人として働く姿はもっとわからない。
想像できないところが、まだまだ子供と言われても仕方のないところなのよね、と彼女は思った。
らっきょ氏が行く末を案じていた書道部は、3年生が加奈江、政に後日入部した1名を加えて3人。2年生が3人。押し出しで出て行く3年生の人数と同じ3人が新入部員として来てくれなければ心許ないし部は成り立たない。
らっきょ氏みたいにスカウトに走らないといけないかしら、と部員達が覚悟をしていたところへ、入ってくれた今年の新入生は4人。
ありがたくて涙が出そうだった。
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