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今回の1年生は稽古先で顔なじみの、政や加奈江の後輩たちが入ってくれていた。
加奈江も一時はお習字の先生からの紹介で入部した。
人の紹介を頼みにするのは恥ずかしいことと一時は思ったけれど、嫌なら人は断る。来たりしない。
ご縁を、感謝しないといけない。
そのことは政から教わった。
彼は、年長者も後輩も大切にした。
制作に入ると途端に無愛想になるから、なおさら普段はまめに接していた。
「1年の時は仏頂面で相手されたわ」とふざけて憎まれ口をたたいたら、「2年も前のことだろう? 俺だって学ぶし、諭されるし、成長していると思うけど」と政は真顔で言う。
彼は一時も止まっていない。
いつも先を見ている。
彼しか知らない道を、一歩一歩。成長は亀の歩みでも、着実に先へ進もうとしている。
制作に取りかかった彼が、気合いを入れると、背中を向けていても気付くようになった時、加奈江は自分の手を止めて、政の後に控えるようになった。
ある日、「水流添は自分の書を続けてくれ」と政は言った。
「書くのを止めてはいけない」と。
「わかっている、――負担になってはいけないと、わかっているけど」と加奈江は言った。
「私のエネルギーが、何というか……吸い取られていきそうな気がするの。尾上君の方に流れて行くみたいで。何をしてても手につかないの。なら、と思って。それに、気になって仕方ないもの、何を書いているのか、書こうとしているのか、一番に知りたい」
そして、心の中で自分に語った。
全部、余さず知りたい、あなたを。
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