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これは、偶然か。はたまた必然か。
そもそも、俺にはこんな偶然も必然もいらないんだよ。
「あれ?瑠依?」
「ーー柊………っ。」
嘘だろ。なんで、お前、ここに。
「知らなかった。瑠依、ここで働いてたんだ。俺、何度もここ出入りしてんのに。」
「…………。」
俺も知らなかったよ。お前が、俺が働いているスポーツ用品店に出入りしてるメーカー会社に努めてるなんて。
何なんだよ。一体。今まで会わなかったのに、この前といい今日といい。
「ラケットとか買いにくる子たちの相談とかうけるの?」
「相談されても教えられることなんてねぇよ。」
「ウソ。昔から後輩に教えるの上手かったじゃん。」
柊の声。その笑い方。この前は、酒の力で誤魔化せたのに。それがない今は、まるで、高校時代に戻ったような錯覚に陥ってしまって。
自分が、今、何処にいるのかも分からなくなる。
「ああ、そうだ。瑠依。携帯番号、変えたんだね。新しいの、教えて?」
「今は仕事中だから、持ってない。」
高校卒業後、柊と連絡が取れないように自分からその繋がりを切った。
「まあ、だよね。はい。じゃあ、後でここに連絡して?」
名刺の裏に、プライベートの番号を書いて。柊は俺に渡してきた。
「………………………………。」
懐かしい、筆跡。懐かしい、番号。
本当は、記録を消したって。俺の記憶からは消えてなかった。
お前の番号も。メルアドも。
「ちゃんと、連絡してよ?」
「……………分かってる。」
なあ、神様。俺、10年耐えた。頑張ったんだ。それが、この仕打ち?何の罰ゲーム?
これ以上、俺を苦しめようとするの?
「そうだ。今日、暇?夜飯食いに行かないか?」
「今日は、遅番だから………。明日は普通勤だし。」
「そっかあ。じゃあ、今度行こっか。」
「……………………………………そうだな。」
それとも、何か。もうそろそろ、不毛な恋は止めろと。諦めろと。そう言ってるのか?
「本当に、連絡してね。…………じゃないと、毎日でも、ここに来るから。」
「!!…………………わ、わかった。」
柊の強い目。ここぞの勝負時に、必ず見せてた目つき。
お前は、今、何と勝負してんだ?
俺には、分からない。どうしていいのかも分からない。
頼む。頼むよ。
誰か、頭悪い俺にもわかるように、説明してくれ。
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