サイレンサー

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「よく見てるんだね、お客のこと」 「?」 「スクーターで来るって、分かってる」 「あ……はい」  常連さんになると、大体覚えるよね。客商売ってそういうところ、大事だと思う。今、たまたまなのか何なのか、店にお客さんが居ない。ちょうどはけたところ。でもきっとすぐ来る。 「今日、店のみんなで食べようってなって。ここの豚しょうが焼き丼。俺が美味しいって言ったから」  手に持った豚しょうが焼き丼6個をくいっと持ち上げて、にっこり笑う。笑った顔、あたし胸に焼き付けるね。 「そ、そうなんですね。ありがとうございます」 「店長が食べたいって、電話したんだ」  電話くれたの、店長さんかぁ。 「じゃ」 「あ、ありがとうございましたー!」  ああ、あの豚しょうが焼き丼さん達が、彼らのお昼休みを最高のものにしますように……。いい日だな。光太郎さんと喋れたし。  ここから見えない位置にスクーターを止めたのか、光太郎さんの姿は見えなくなった。明日も来るかな。店長に豚肉とネギの在庫を聞いておこう。切らしてなるものか。でもね、他のメニューも美味しいんだよ……。まぁ良いけど。
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