サイレンサー

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 ふと視線をずらしたあたしは、気付いた。レジの隣に、ビニール袋がひとつ。 「ああ! なめこ忘れた!!」  あたしってば。それをガッと掴み、急いで店を出たけど、走り去るスクーターのスの字も見当たらない。どっちに行ったのかな……今日は職場で食べるんだろうから、近所の公園に行ったって居るわけ無い。味噌汁分のお金はいただいてるし、やばいなぁ。店に戻って、厨房へ行く。 「店長すみません。さっき豚しょうが焼き丼と一緒に注文いただいた味噌汁、お渡しするの忘れちゃって……」  店長は、おやまあ、そんな感じの顔であたしを見ている。 「お代は?」 「いただいています」 「誰だった? 知ってる人?」 「ええと、バイクショップ・ミナセさんていう……」 「ああ……あれかな、国道のあっち側のな。じゃあさ、届けて来てよ」 「そ、そうですよね」  店、忙しいとは思うけれど、このままにしておくわけにもいかない。 「行って戻ってくるの3、40分てとこかな? そのくらいあれば行けるだろ。自転車だろ?」 「はい」  あたしはもう飛び出して行く体勢だ。レジ下にある斜めがけバッグを取って、自転車の鍵を取り出し、握り締める。バッグには携帯とお財布。これも持って行かねばなるまい。勢いよく肩に回す。裏に回り愛車に跨がって、ゴーだ。シミュレーションはOKだ。 「気を付けて、いってらっしゃい」 「はい!」  あたしは、なめこの味噌汁が6個入ったビニールを掴んで、裏口へ一目散。自転車に鍵を差し込んで、かごにビニールを放り込む。あ、ごめんなさい。食べ物なのに……。スタンドを外して跨り、軽やかに走り出した。
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