恋ごころトルク

サイレンサー

　お昼は忙しい。あと夕飯の時間帯ね。

　お弁当。あたしが売るお弁当は、自分で食べるものじゃなく、家族に作るものじゃなく、知らない誰かのお腹を満たしてる。美味しいねって言って笑って食べてる親子や、ごめんね今日はお弁当なのって言ってるお母さんとか。お母さん忙しいから今日は特別ねって、チキンカツ弁当あたりを子供の分と自分達の分とで買っていくお父さんとか。想像するだけでにこにこしちゃう。

　光太郎さんが、美味しく食べてくれますように。

　１年くらい前からだろうか。お昼の時間に食べるお弁当を買っていく。ほぼ毎回、豚しょうが焼き丼。あたしも休みがあるし、毎日じゃないんだけど。続けて来る時もあれば、間が空く時もある。でも、どんだけ豚しょうが焼き丼が好きなんだよ。

　黒いスクーターで来て、店の前に駐車して、お弁当を買っていく。そして近所の公園で食べる。つなぎに刺繍されているバイクショップの名前が、この商店街にあるバイクショップじゃないのは分かってた。調べたら、ちょっと離れたところのショップだということが判明。スクーターでどれくらいなんだろう？　１５分くらいで来るのかなぁ。

　あ、ここまで来ると、まぁなんかストーカーみたい……なのは自分でも気付いてる。

　別に、背が高いとか、顔が好みだったとか、そういうことじゃないんだ。いや、そういうことはもちろんあるけど……でも、外見もだけど、あたし見たんだ。公園でね、猫にサラダあげてるところを、見たの。胸キュンすんじゃんそういうの。

　あたしは先月２６歳になった。結婚と妊娠と出産を逆算してみたりするけれど、なんかぼんやりした未来しか見えてこないよ。

　お弁当作って、人が幸せそうにしてるの、嬉しいなって思う反面、自分も幸せになりたいよ。なんていうか、誰か１人の為にずっとお弁当を作るっていうの？

　あたしの作ったものを、美味しいね美味しいね、アハハって食べてくれる恋人が居たらね。なんてね。自分で作って自分で食べるお弁当も美味しいけれど。

「真白ちゃん、冷食のハヤタカさん１５時頃に来るって」

「あ、じゃあ発注出しておきます」

　バタバタ忙しい時はお弁当業務に没頭しつつ、頭の回転も淀みないから、色々考えちゃう。いま、あたしの目標は……光太郎さんと仲良くなりたい。