サイレンサー

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 *  次の日、自転車を颯爽と走らせてサクラクックにたどり着いたあたしは、先に来ていた店長夫婦に挨拶して、掃除を始めた。レジカウンターを整理してゴミを片付け、お弁当陳列ケースのガラスを拭く。  陳列ケースと言っても、並べられているのはフェイクだ。食品サンプルってやつね。ちょっと出来上がり実物とは違う気がするけれど、だいたいよね、こういうのって。食品サンプルのメニューは、ずっと変わらないレギュラーメニューだ。  新メニューが開発されれば、写真を撮ってポスターを作ったりする。ポスターは店長と奥さん、あたしで考えるんだ。メニューは店長の気まぐれだったりするけれど。 「今月、魚の限定メニュー出すぞ」  そんなことを言い出せば、毎日魚の試食が行われる。煮たり焼いたり、フライにしたり。店長、あたし太っちゃいます。  今度、豚しょうが焼き丼デラックスとかどうだろう。豚しょうが焼き丼に、味噌汁とポテサラ付けて、唐揚げも付けるの。  店の開店は10時だけど、開店と同時にお弁当と買いに来るお客さんはたくさん居る。遅い朝ご飯とか、早めのお昼ご飯かもしれない。一度看板の電気を入れ、シャッターを開ければ、休まる時間なんて無いのだ。お弁当屋は忙しい。なんて考えてるうちに本日初めてのお客さん。時計は10:03。女性のお客さんだ。 「カツ丼5個ください」 「カツ丼5個ですね。お時間いただきますー!」  あたしは注文を厨房に伝えると、レジで金額を計算し、お会計を先にした。  4月に入ってから、やっと暖かくなってきたって感じ。行楽に持って行くのだろうか、5個とか6個とか注文されるお客さんが居る。家族で食べるんだろうなー。いいな。うちのお弁当は美味しいよ。 「幕の内ひとつと……日替わり弁当って、今日は何ですか?」 「今日は……白身魚のフライとアスパラベーコン炒め、煮物とポテトサラダです」 「じゃあそれひとつ」 「はい。ありがとうございます」  ほらほら、忙しくなってきた。こうして午前中はあっという間に過ぎて行く。
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