Love is blind

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 言葉を交わす間、不思議と涙は出てこなかった。昨日の会話の続きをするように、冗談を言ってみたり、小馬鹿にしてみたり、いい年して何をやってるんだか、と自分でも少しおかしくなって笑う。  もうちょっとだけ、あとちょっとだけ。この時間を続けさせて。神に願うのはそれだけだった。しかしすぐにそんなごまかしは続けられないと気づく。ひとつ呼吸をするだけでも精一杯だ。  短く、簡潔に。無駄な付け足しはいらない。自分がどれほど想っていたかぐらい一言で分かってくれるだろう。そして―― 「――さよなら」  全身の力が抜けて、重力に抗うことはもう出来ない。自由落下に身を任せ、それでも最後まで携帯電話は握り締めていた。彼との繋がりをいつまでも感じていたかったから―――― 1, A day in the life  試合は終盤に差し掛かる7回裏、ヤンキーズスタジアムに快音が響いた。コンパクトに、しかし鋭く振り抜かれたバットは白球をサードの頭上へ飛ばし、ファウルラインすれすれをどこまでも転がっていく。あわててかけていく外野を横目に、31を背負った打者が一塁めがけてスプリントダッシュ。ベースを踏み抜いた彼は涼しげな顔をしてテレビ画面のほうに振り向いた。これが僕の仕事なんで、とでも言わんばかりに。  今年ヤンキースに移籍したばかりのイチローは新天地で早速アクセル全開だ。ニューヒーローの登場とあってファンははリーグ優勝も狙えると息巻いていやがるが、そう簡単にいかねえのが世の常ってやつだ。 「おっしゃー、次行け、つぎー」  それでも何となく応援しちまうのは地元民の性なのか。俺はテレビ前のソファに寝転がりつつ今日2本目の缶ビールを飲み干した。  俺はポップコーンを右手に、ビールを左手にヤンキーズの試合を家のリビングで観戦している。球場までは車ですぐ行ける距離だが、正直直射日光とファンの暑苦しい熱気に晒されるのは好きじゃない。
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