Love is blind

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 ニューヨークはマンハッタンで個人のイタリアレストランを経営している俺は、夏の終わりが近づくこの時期になると二週間ばかり店を閉めて休暇と仕入れ先回りをやることにしている。俺のところに友人のアンドリューから電話がかかってきたのは、夏の休暇が始まって三日目のことだった。郊外の自宅でのんびりとビールをかっくらっては、点けっぱなしのテレビをだらだら見続けていたところに、ソファー脇に引き寄せている電話が着信をけたたましく知らせた。 『カイルか、アンドリューだ』 「ああ、お前か。久しぶりじゃないか、そっちから掛けて来るってことは何かトラブルでもあったのか?」 『人聞きの悪いことを言うな、確かにいつも君の方からだったが。今日は頼みたいことがあって電話をした』  アンドリュー・エドワーズ。ハイスクールの同期で、チェス部へ興味本位で入った俺に手取り足取りルールを教えてくれて以来の付き合いだ。俺の方は大学中退後レストランで修業していたが、奴の方はエリート一直線だった。MITを首席で卒業した後は工学研究者としてそこそこ名を上げているらしいが、詳しいことは機密漏洩の一点張りで何も喋らない。常に研究で頭がいっぱいだってんで、時々俺の方から電話をしてやらないと気楽に会話することも出来ないとか。……俺をバカにしてるんじゃないかと思うことがたまにあるけどな。 「頼みたいことなぁ。先に話を聞かせてもらおうか」 『明日から数日間犬を預かってくれないか。ゴールデンレトリバーのメスだ』 「お前いつからペットなんて飼ってたんだ? 初耳だぞ」  俺はあいつにペットがいることに驚いた。以前猫の話をしたら「愛玩動物には興味無い」の一言でシャットアウトされたからだ。それ以降動物の話は全くしていない。 『それで、明日の朝早くにそちらの家へ到着する予定だ。私用が全部済んだらこちらから迎えに行こう』  こっちの質問には答えずにアンドリューは続ける。だがその声に違和感を俺は覚えた。妙に焦って緊張しているような感じだ。それに理由を説明せずに用件だけ先に言うのは手順と因果関係を重視するあいつの性格にそぐわない。 「ああ……分かった」  違和感が腑に落ちなかったが口には出さず俺は承諾する。犬を預かるだけだし、適当に散歩と餌やりさえしてりゃなんとかなるだろ。 『そう言ってもらえるとありがたい。では、忙しいので切るぞ』
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