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言うが早いが電話はあっさりと通話終了。何か釈然としないものがあるが友人の頼みだ、引き受けない理由はどこにもない。俺には話せない込み入った事情があるんだろうが、詮索したところで俺が何かアドバイスできるようなことはたぶんない。人知の及ばないような世界であいつは仕事してんだ。
テレビに目を戻すと、打席は二つ進んで1ストライク2ボール。一塁への牽制球がピッチャーに戻されるところだった。イチローはまた懲りもせず大きく前に出て盗塁の構えを見せる。
不調続きのヤンキースを救えるか否か。エンジェルスの投手が大きく振りかぶり、それに合わせてイチローの鋭い目がきらりと光った。
翌朝、数少ないしわが付いてないTシャツとジーンズでアンドリューの到着を待っていた。酔っ払ったままで迎えるのも悪いんでもちろんビールは開けていない。遅い朝に食べたスパニッシュオムレツの香ばしい薫りがリビングに漂う中、テレビのおどろおどろしい演出の政党キャンペーンを適当に聞き流す。人待ちで退屈してるときにさらに退屈な映像を流されると画面を無性に割りたくならないか?
ニュースキャスターがオバマ大統領の支持率低下を粛々と述べている時、ようやくドアチャイムが鳴った。二日酔いでだるい体を引きずって玄関に向かう。
ドアを開けると――てっきりアンドリューが来るものだと思っていたが――見知らぬ黒人の男がゴールデンレトリバーを連れて立っていた。どうやら家の前に止まっているイエローキャブの運転手らしい。犬の方は黄金の名に相応しい見事な茶色と金色の毛並みで、銀色の太い妙な首輪をつけているが、そっぽを向いて愛玩犬らしくない仏頂面をしている。
「あんたがカイル・マクレガーだな、乗車代を払うっていう話は?」
「いや、知らねえな。一応聞くが、その犬の飼い主は眼鏡をかけた茶髪の痩せた奴か」
「ああ。この犬をあんたの家に連れて行ってくれと急に乗り込んできて、金も出さずにどこかへ行っちまった。訳は知らないがずいぶん慌ててたぜ」
運転手はタダ働きのせいか大分機嫌が悪そうで、この場で支払わないとややこしくなりそうだ。仕方なく財布の中から代金を出してやった。
「ありがとよ。こっちも商売なんでね、文句を言う相手は間違えないでくれよな」
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