次はちゃんと

3/3
前へ
/3ページ
次へ
「あのさ、山下って門限ある家?」 彼は冷蔵庫をちらちら見ながらこう言ってきた。 こういう場合は、真面目な自分をアピールするべきだよね。 彼はきっと真面目な部類ではないけれど、私は真面目な部類に属しているわけで。 「ある。」 本当は無いんだけど、ここはしっかりとした女をアピールしなくては。 「何時?」 嘘、何時か聞かれるとは、そうか、どうしよう… ここは正直に言おう。嘘はきっと、この人にはもう通じない。 「今日は、門限なかったかも。」 今日はって言っちゃったけど、いつもないんだよ。次はちゃんと言おう。 次はちゃんと相合い傘をしようって言おう。 次はちゃんと菓子折りを持ってこよう。 次はちゃんと門限がないって言おう。 次はちゃんとお泊りセットを持ってこよう。 しっかりとした女をアピールしなくては。 ちゃんとした女をアピールしなくては。 恋をしているんだ、私は。 私は彼に、恋をしている最中なんだ。 「じゃあ、ちょっとコンビニ行ってくるわ。」 「え、どうして?」 「朝御飯。買ってくる。前に食べたいって言ってたじゃん。あそこの苺のサンドイッチだっけ?あれ明日の朝御飯にしようぜ。」 覚えててくれたんだ。ぼそっと言った言葉だったのに。 彼の耳はきっと地獄耳だ、これは間違いない。 「宮下君も苺にするの?」 「いや、俺は弁当。唐揚げ弁当だよ、安定の。」 「私も唐揚げ弁当がいい。」 「え、朝からがっつり食べれるの?」 彼の好きなものを、もっと知りたい。 私は何も知らない事ばかりで、それなのに家に上がってしまった。 私はふしだらなのでしょうか。 「緊張すると思うから、きっとおなか空くと思うから。」 「ん?何に緊張するの?」 「夜一緒にいることに。」 私はやっぱり、計算高い女なのでしょうか。 彼の一言一言に、この気持ちを少しでも乗せていきたい。 届いて、私の気持ち。 次こそはちゃんと、好きって言おう。 もちろん、直接、目を見て、ね。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加