0人が本棚に入れています
本棚に追加
「あのさ、山下って門限ある家?」
彼は冷蔵庫をちらちら見ながらこう言ってきた。
こういう場合は、真面目な自分をアピールするべきだよね。
彼はきっと真面目な部類ではないけれど、私は真面目な部類に属しているわけで。
「ある。」
本当は無いんだけど、ここはしっかりとした女をアピールしなくては。
「何時?」
嘘、何時か聞かれるとは、そうか、どうしよう…
ここは正直に言おう。嘘はきっと、この人にはもう通じない。
「今日は、門限なかったかも。」
今日はって言っちゃったけど、いつもないんだよ。次はちゃんと言おう。
次はちゃんと相合い傘をしようって言おう。
次はちゃんと菓子折りを持ってこよう。
次はちゃんと門限がないって言おう。
次はちゃんとお泊りセットを持ってこよう。
しっかりとした女をアピールしなくては。
ちゃんとした女をアピールしなくては。
恋をしているんだ、私は。
私は彼に、恋をしている最中なんだ。
「じゃあ、ちょっとコンビニ行ってくるわ。」
「え、どうして?」
「朝御飯。買ってくる。前に食べたいって言ってたじゃん。あそこの苺のサンドイッチだっけ?あれ明日の朝御飯にしようぜ。」
覚えててくれたんだ。ぼそっと言った言葉だったのに。
彼の耳はきっと地獄耳だ、これは間違いない。
「宮下君も苺にするの?」
「いや、俺は弁当。唐揚げ弁当だよ、安定の。」
「私も唐揚げ弁当がいい。」
「え、朝からがっつり食べれるの?」
彼の好きなものを、もっと知りたい。
私は何も知らない事ばかりで、それなのに家に上がってしまった。
私はふしだらなのでしょうか。
「緊張すると思うから、きっとおなか空くと思うから。」
「ん?何に緊張するの?」
「夜一緒にいることに。」
私はやっぱり、計算高い女なのでしょうか。
彼の一言一言に、この気持ちを少しでも乗せていきたい。
届いて、私の気持ち。
次こそはちゃんと、好きって言おう。
もちろん、直接、目を見て、ね。
最初のコメントを投稿しよう!