序幕

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甘い―― 甘くて、頭を痺れさせるような香りで埋め尽くされた部屋で―― 数多の男女が裸で絡み合い、声をあげていた。 淫靡な交わりと矯声で充たされた部屋――。 誰もが欲望に飲まれ、貪り、理性の全てをかなぐり捨てている中で――。 ただ一人だけ。 女を抱きながら、理性を保っている男がいた。 女の腰を抱き、自分の身体の上に乗せ、強く貫きながら、男は理性を保ったまま、辺りを伺っていた。 (あいつ……。居るな。それとあいつとあいつも……) 数多の男女の中を見渡し、目当ての人物をめざとく見つけ、女を腰から抱く。 (そろそろ……頃合いかな……) 男がそう小さく呟くのと同時に、女が苦笑した。 「……なんだよ?」 男が問うと、女が蔑むように笑った。
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