第5章

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 得点のチャンスの度に周りのサポーター達と大騒ぎをした。  時に顔を近付けて彼は試合の解説をしてくれる。  途中で何度も頭を撫でられて、頬っぺたまで抓られた。  応援していたチームが得点を上げると、サポーター達の地鳴りのような歓声の中、彼がギュッと俺を抱き締めた。  試合が終わると興奮気味に感想を話す俺を、彼は愉しそうに見つめた。  そして、また駅へ向かう人混みで逸れないように手を繋ぐ。  駅ではソフトクリームを買って貰い、電車を待つホームで食べていると、一口くれと言われた。  食べかけのソフトクリームを差し出すと、彼はペロリと俺が舐めていたところに舌を這わせた。  家に近い駅に降り立つと、今度はファミレスに連れて行かれて夕飯までご馳走になった。  食事中も彼は何かと俺に触れてきた。  でも、それを俺は特別、嫌だとも思わなかった。  帰りの遅い俺を心配した兄が迎えに来るまで、俺たちはファミレスで、さっきの試合の感想を語り合っていた。  とても楽しかったから家に帰り着くまでの間、俺はずっと兄に今日の事を語って聞かせた。  当時、中学三年になっていた兄は最初は笑顔で俺の話を聞いてくれた。  しかし、途中から段々と厳しい顔つきになり、最後は二人だけで出掛けるなと言われた。  何故注意されたのか、その時は分からなかったが、その後、直ぐに兄が怒った意味が判った。  翌日、学校で俺はサッカー友達に昨日の出来事を自慢気に話してしまった。  特別、彼に口止めもされなかったし、他の子たちと違い彼に特別扱いされた優越感で黙っていられなかったのだ。  友達はとても羨ましがり、今度はサッカー仲間で観に行こうと、その場は話が終わったのだが、その子が他の子に俺たちの話をしてしまった。  あっという間に俺と彼が二人だけで出掛けた事がクラス中に拡がった。  やがて、それは担任教師の耳にも入った。  俺は何も言われなかったが、彼は担任に口頭で注意を受けたようだった。  それから教育実習が終わって彼がいなくなるまで、何となく彼とはギクシャクとした雰囲気になった。
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