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体を弄られる感触で意識が覚醒する。
薄く開けた目に映るのは暗い闇だけで、目を細めて周囲を知ろうとする。
ふと、何かが軋む音が聴こえて自分の頭上にぼんやりと緑色に光る文字のような物が見えた。
これは……、デジタル時計の数字……?
何かが軋む音は段々大きくなって、その音とは別に人の声らしき音も幽かに流れてくる。
軋んでいるのがベッドのスプリングだと分かって、流石におかしいと思い始めた。
自分の部屋にはベッドは無い。
古い六畳間の和室に布団を敷いて寝ているのだから、ベッドに横になっているなんてあり得ない。
頭の上のデジタル時計の文字盤をぼんやりと眺めると、それに見覚えのあることに気がついた。
これは……。
これは昔に行った出張先のホテルのものか。
だったら、これは夢だ。
ああ、また、この夢を見るようになってしまったのか……。
やけにはっきり聞こえるベッドの軋む音も。
自分の体を這う手の感触も。
唇を啄むキスの暖かさも。
自分の口から発せられる喘ぎ声も……。
全ては以前の記憶を繰り返して見ているだけだ。
だから、今、自分に覆い被さっているこの重さも耳元で囁かれる甘い声も全て夢の中の出来事だ。
――なあ、聴かせてやれよ。お前の声を。
もう、会えなくなった人の懐かしい声……。
――こんなに、お前のことが好きなんだ。
そうだ。
俺だって好きだった。
貴方のことを愛していた。
心から……。
――信じていたのに!
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