第一章 堕天医師

2/25
前へ
/332ページ
次へ
 つい先日まで七分咲きだった中庭の桜がようやく満開になり、春真っ只中の陽気が続く今日この頃――。 「後藤先生、ありがとうございました。おかげでここのところずっと快調です」 「それは良かったですね。術後も安定してますし、この調子でいけば来月には職場に戻っても大丈夫ですよ」 「本当ですか!? やっぱり手術を後藤先生にお任せして正解でした。本当にありがとうございます」  先月まで複雑骨折で入院していた中年の男性患者を見送って、午前中の外来診察を終える。そして誰も見ていないことをいいことに、肩の力を抜いて大きなあくびと背伸びをした。
/332ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1553人が本棚に入れています
本棚に追加