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この調査が終わるまでの間だけだ」
「何もなければ、そういう生活でしたからね。いいですよ、分かりました」
「すまん、恩にきる」
普段では見たことの無いような硬い表情のコアードが頭を下げている。
「いえ、それくらいなら大丈夫です」
「よし、じゃあ俺はゴニアと村長を交えて今後の話を決めてくる。聖殿祭の過去の話なん
かも調べにゃならんが……その辺はお前達にも手伝って貰うかもしれんから、その時はよ
ろしく頼む」
「分かりました」
「オル、ここの俺が居ない間は、ここの警備は任せるぞ」
「うん」
それだけを言い残し、コアードは足早に祠を後にした。
「大変だったね」
珍しくオルの方から話掛けてきた。
「え、ええ、まだ混乱しています。結局何も出来ていないし……」
「そうだね。でも君はコアードにも、僕にも頼りにされている事を自覚していて欲しい」
「頼りに……ですか」
無表情の青年からの思わぬ告白を受け、驚いてしまう。
「そう、混乱しているのは皆同じ。だけど君はこの事態の中心に居る、たぶん僕らが知り
えない事も無意識に見ていたり、感じていると思う。だから僕らに力を貸して欲しい」
「オルさん……」
「ダメかい?」
「いえ! 僕に出来る事なら」
「そう、よかった」
青年の口元が少しだけ緩くなったように見えたのは微笑んでくれたからだろうか。そし
てすぐにいつもの無表情に戻る。
「これ、そこに落ちていた物だよ。君に預けておくよ」
「これって、人形が使っていた細剣……」
「そうらしいね、僕は実際に見た訳じゃないけど、コアードの大剣を受けても壊れなかっ
たらしいじゃないか。結構良い物かもしれない」
自分が殺されかけた武器を手に取り、今朝の事が頭を巡る。
「今は危険では無いと思うけど、何があるか分からない。用心の為に」
「はい、ありがとうございます」
「おーい」
振り返ると、手を振っているキュレとリリィが見えた。
リリィは薄手の淡い白のワンピースを着ており、ほんの先ほどまで、全身泥だらけだっ
たようには思えなかった。
黒味が強い赤い髪に灰色の瞳と、人形に入る前のリリィの姿とほぼ同じであったが、髪
の長さだけが少し短くなっているようだ。
「キュレに綺麗にしてもらったよー」
何故か嬉しそうに一回転をするリリィ。
「……この子が、さっきの人形?」
感情の乏しいオルがあからさまに複雑そうな表情をしている。
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