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彼女は全く気付いていないが、男子間での加奈江の人気は殊の外高い。
凜としたたたずまいと、女子にしては高い、すらりとした身のこなし。年齢に見合わぬ大人びた雰囲気には男を引き寄せる色気の萌芽がある。
彼女はたおやかな百合の花のようだ。
おさげに隠れた艶やかな長い黒髪は、解いていつまでも梳いてやりたいと思う欲望を喚起させる。
好意を寄せる他の男子を寄せ付けたくなくて彼女のそばを離れないようにしているだけの男心を、加奈江は全く気付いていない。
加奈江の頬に己の頬を寄せた時、女の子は柔らかくてとてもいいにおいがすると思った。
他の男に、絶対、渡してなるものか。
それに――自分には彼女が必要だ。
加奈江は、よく、彼が制作に入ると、気力のようなものが抜かれてしまうと言った。
それと同じことを政自身も感じていた。
加奈江がそばにいると、身中に力が籠もって思わぬものが書けた。
一度二度ではなかった。
詩人の霊感を司るミューズのような存在。自分にとっての制作の意欲の源となっているのは、加奈江だ。
彼女がいない自分は想像できない。
だから。
大切にしたい。
「カナ」
「なあに?」
『カナ』と呼ばれるのに慣れた加奈江は、おさげを揺らして小首を傾げる。
「来週、定期試験で帰りが早くなるだろう」
「うん」
「少し寄りたいところがあるんだ。来てくれないだろうか」
「うん、いいわよ。どこなの?」
「学校の近所、高輪だよ。俺からカナのお母さんにお許しをもらうから。もし、OKと言ってもらえたら、いいか?」
「うん」
加奈江はうなずいた。
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