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◇ ◇ ◇
政に誘われていった先は、学校にも近く、そしてふたりが進学を希望している大学にも近かった。
驚いたことに、自宅からも近い。
なのに、行った先の住人については呆れるほど何も知らなかった。
近隣の家の縁石に腰掛けて、彼はしばし一軒の家を見る。モダンな作りの和洋折衷の家だ。
こちらはどなたのお家なの?
聞きたい心を胸の内に収めて、加奈江は彼の言葉を待つ。
彼は、はっと顔を引き締め、腰掛けていた身を起こした。
見ると、彼の視線の先には、件の家の住人がドアを開けている姿がある。
ふたりの方へ歩いてくるその人から、隠すように政は加奈江の前に立つ。
肩越しに背伸びをして見るわけにはいかないから、けれど気にもなるから、彼の人がふたりの前をすれ違う時、顔を見た。
年の頃は、姉と言うには年が行きすぎ、母と言うには若すぎる、妙齢の女性だった。
緩くうねる髪をきちんとまとめて櫛目を入れて撫でつけている。化粧はあまり濃くなく、今風とは違うけれど、本人の顔立ちを引き立たせる、とても品のよいものだった。
母や姉が着道楽で服にはとてもうるさいので、彼女も同年代の友人たちよりは少しは見る目がある。服もこざっぱりとしているけれど、流行を追わない、仕立てが良いもので、着こなす姿は垢抜けていた。
加減を知る大人の女性。
加奈江も女子としては長身と言われている、けれど彼女の方が指の2関節分ぐらいは高そうだ。
醸す雰囲気は、昔の映画の女優・スターといった言葉がぴたりと合う。
牡丹か芍薬の花のような女性。
美人だった。
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