その1

10/14
前へ
/46ページ
次へ
 自分を押していた少女がそんな呟きを漏らせば、ソーヤは思わずフロントガラスを見てしまう。 「きゃ!」  フロントガラスを見たソーヤは小さな悲鳴を上げると、反射的に静佳にしがみついた。 (やった!)  静佳にしがみつくソーヤの姿を見て夢葉、亜華火、保美の三人は目を輝かせ、密かにガッツポーズをする。 「亜華火さん!ソーヤが!」 「ソーヤ、やるじゃない!」  あんなに恥ずかしがり屋なソーヤが、自ら静佳に抱きついたように二人には見えたのだろう。 (よ、予定通り・・・)  夢葉の方は自分の計略が上手くいき、思わず笑いそうになった。それでも、まだ計画は始まったばかり、ここで笑ってしまったら計画が静佳に露見してしまう。夢葉は気付かれないよう口元を手で隠して笑いを堪える。  そして、夢葉には聞こえないようインカムを使って明日香に伝える。 「上手くいきました。明日香先輩」 「そう。ただ、車内を覗き込んだだけなのに・・・」 「ええ。ものは試しでしたが・・・。戻ってもらって結構です」  作戦が上手くいったと伝えられたが、今一つ感触というのを掴めなかった明日香は首を傾げて車内を覗くのを止めて特等席に嫌々ながら戻った。  静佳は顔をひきつらせてながらも、必死になって絶えていた。過敏症で暴れないように。  ここまで、人に接近されたのは初めての経験だった。明日香に手を握られただけでも大慌てで逃げるほどなのに、この逃げ場のない車内でソーヤにしがみつかれた。動くこともできず、堪えているのが精一杯だ。  事情を知らぬ者が見れば、静佳はキモが座った者に見えたかもしれない。もし、そうだとしたら勝手な想像だ。静佳の本音は、全くの逆だというのに。 「・・・・」  ソーヤは静佳にしがみついたまま、しばらく動けなかった。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加