その1

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 幽霊を見たというソーヤの言葉に静佳の眉が少し動く。 「は、はい!見間違いかもしれませんが、一瞬、凄い形相で私を睨む女の幽霊が見えました。それに、ビックリして思わず・・・その・・・」  ソーヤの声は後半になるにつれ小さくなった。自分で言っておきながら、しまったと思って。今でも、時々、テレビでは心霊特集を組んだ番組を放送しているけど今時、幽霊を見て驚くなんて、言い訳にもならないことを口走ってしまった。  しかし、ソーヤは嘘は言っていなかった。フロントガラスにしがみついた灰色の女の幽霊が自分を凄い形相で睨み付けていたのだ。強い恨みでも持っているかのように。 「すいません。幽霊だなんて、信じられませんよね。そんなの実在しないのですから」 「いや。俺は信じる」 「え?」 「人は自分の目に見えないものは、根拠がなくても否定する。存在すると立証することは難しいが、存在しないと立証することはその何倍も難しいことなんだ。そもそも、それが、存在していると信じている者には、それは本当にあるもので、譲れないものだ」 「・・・・」 「人はそれを『信念』と呼ぶ。だから、俺はソーヤの言うことを信じる。それだけだ」 「あ、ありがとうございます・・・」  ソーヤは俯いて黙り込む。嬉しくて照れ臭かったから。ここまで、ハッキリと肯定してくれる人はいなかった。今時、幽霊を信じているなんて子供っぽくて、同じオカルトクラブの亜華火や保美ぐらいにしか話したことがなかった。 (本当に、静佳さんって、凄い人・・・)  自分はそんな凄い人に恋をして、デートをしているのだなと思うと、今日の出来事が夢であるかのように思えてしまう。  一時間という時間が長く感じて、まるで同じ場所をグルグル、回っているような気分だ。  静佳はソーヤの言葉を少しも疑いはしなかった。
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