その1

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 普段、生者は死者や逢魔を普通の人は目にすることはまずない。もっとも、見えやすい時間帯でも生と死の境界が曖昧になる逢魔が時の時間帯であるが、暗がりで見えずらく、死者や逢魔に会ったことすら多くの人は分からずに過ごしていることだろう。  しかし、例外も存在する。全く見ることが出来なければ、怪談話など生まれることはないから。たまに、それ以外の条件下であっても、普通の人でも見える時がある。レンズが歪んで一瞬だけ、別な次元にいる彼らが見える時が。恐らく、ソーヤは偶然、そのレンズの歪みを見てしまったのだろう。  人には見えないもの。一般に幽霊と分類される死者を見ている静佳にとって、とりわけ、珍しいことではない。ソーヤの言葉から、彼女が目撃したのは逢魔に取り込まれていないただの死者だと思った。もし、逢魔に取り込まれたもしくは、魔化した者がバスに張り付いていた場合、それを倒さなくてはならないが、辻利家の者としては。  幽霊が現れたという話をしてくれたおかげで、少し緊張が和らいだ。周囲に人がいるのは慣れないが。 「ありがとう。ソーヤ、助かった」  静佳はポツリとソーヤに礼を言う。 「え?」  彼からの急な礼の言葉にソーヤは戸惑う。自分は何もしていない。一人で勝手に騒いでいただけなのに、どうして静佳に礼を言われたのか。その理由が。 「////」  ソーヤはますます、赤くなる自分の顔を両手で覆い隠す。見られているだけでも、恥ずかしくて。
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