その2

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 Y県の模歌水族館は夕海町から町を二つほど過ぎた亀岡市の沿岸ある。十数年前までは、珍しくもないどこにでもある普通の水族館と同じであり、年間の来館者数も多からず少なからずであった。どこにでもあるような模歌水族館が一躍有名になったのは、来館者数を増やすために高じた策が功を奏したのが大きいだろう。  模歌水族館は国内でも最大といってもいい程に、多くのクラゲを飼育することを始めた水族館である。たかが、クラゲでぐらいでと、バカにしてはいけない。一口にクラゲといっても、模歌水族館だけで50種類も飼育しているのだ。クラゲの光る様は幻想的で球体型の水槽に入れられ泳いでいる姿を見ているだけで、心が癒される。それが好評で、話題を呼びメディアに取り上げられたのを機に多くの観光客が訪れるようになった。  多くの観光客に対応する為に古くなった水族館は立て直されて、外観も内装も全て一新された。これもまた、客の増員のキッカケとなった一つだ。地元の魚類だけでなく、クラゲに重点を置いた模歌水族館、日曜日にもなれば、水族館に大勢の人々が詰めかけるようになる。  一時間にも及ぶバスの旅は終わった。バスは無事模歌水族館前に停車し、客が続々とバスを降り少し坂を上がったところにある白い帽子のような建物を目指した。そこが、模歌水族館である。 「兄様もソーヤさんも無事に到着できたみたいですね」  先に静佳とソーヤを降ろし後からバスを降りた夢葉は計画が今のところ、無事に進行していることを確認して呟く。バスの中で静佳が倒れるかと心配はしていたが、どうにか耐えてここまで来てくれた。しかし、本番はこれからである。模歌水族館でのデートを成立させることこそ、静佳の対人過敏症を治させる糸口を見いだすには。 「明日香先輩。ここからが、本番です。準備はいいですか?」  夢葉は現世から、明日香には逢魔の狭間から二人のサポートをする。夢葉は最終確認をするように、逢魔の狭間にいる明日香にインカムで連絡をとろうとした。
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