その2

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 一見すると一緒に歩いているように見える二人であったがカメラを拡大し確認してみると、二人の間に微妙な距離があった。ソーヤが緊張して静佳に近寄れないのだと保美は解釈していた。確かに、ソーヤは恥ずかしがって静佳と腕組みは出来ずにいた。その一方で、静佳自身もバスの中で精神力をかなり使ってしまった。人混みから解放されたというのに、誰かと接するなどやりたくなかった。  お互い個別の事情で間を空けて歩いている様はデートというより赤の他人同士が偶然、一緒になったようにしか見えない。 「もっと、ソーヤと静佳さんを親密にする手立てはないかしら」 「保美。二人のことを心配するのも分かるけど・・・分かってる?私達が何をしにきたか」 「あ・・・」  亜華火に指摘され保美は思い出す。自分達の目的、名目上はオカルトクラブとしての取材であったことを。ソーヤをサポートするのは、そのついでであるということに。  バスで二人の雰囲気が良い感じになったから、それに調子づいて本来の目的を忘れるところだった。 「確か、模歌水族館の幽霊でしたっけ?」 「そうよ」  亜華火は持ってきたタブレットパソコンを立ち上げると、都市伝説や怪談話を扱っているサイトを開き、模歌水族館に纏わる話を引っ張り出した。 【Y県K市、M水族館の幽霊。悲恋の末に亡くなった女の霊がM水族館内を歩き回っている。仲の良さそうなカップルを見つけると水に引きずり込み窒息させようとする。】  よくあるチープな怪談話はあるが、オカルトクラブとしては些細な情報であっても見逃す訳にはいかなかない。地名等は全て頭文字であったが、全国に水族館と呼ばれる施設はそんなに多くはない。全ての頭文字が重なる模歌水族館を探し出すのは、そんなに大変なことではなく。彼女達は、すぐにそこが近くの模歌水族館であると察した。  本当にカップルが窒息するような事件や事故が起きたのか。過去の新聞記事を漁ってみたが、そういうのは見つからなかった。精々、足を滑らせて海や水槽に落ちて溺れかけたということぐらいだ。これは、単なる事故で事件性はないとされて放置されてきた。模歌水族館が立て替えに至ったのも、事故を受け施設内の安全を確保する為でもある。
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