その1

2/14
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
 梅雨の時期も終わり、季節は初夏、七月最初の週の日曜日。夕海高校に通う一年生の雨ノ原想夜(うのはら そうや)、友達からは『ソーヤ』の愛称で呼ばれている彼女はその日、水色のワンピースに麦わら帽子という出立ちで、潮風が吹く夕海海岸のバイパスを歩いていた。  まだ目的地に着いてもいないというのに、ソーヤの胸の鼓動は高まり緊張していた。朱月川を挟んだ南側の繁華街、そこのデパートで購入した手提げバックを持って、バイパス沿いに歩き、夕海高校に向かっていた。学校に向かっているといっても今日は休日である。休日に学校を訪れる人など、インターハイ関係の運動部の部員か、受験を控えた学資絵ぐらいである。彼女の用事は夕海高校前ではなく、高校前のバス停にあった。そこで待ち合わせをしている人がいた。  デートの約束をした日からずっと、ソーヤのドキドキは続いていた。授業も身に入らず、デートを前日に控えた昨夜に至っては嬉しさと気恥ずかしさでなかなか、寝付けなかった。  そして、今日という日を迎えて、ソーヤの心の鼓動は最高潮に達しようとしていた。 (あ~。すごいドキドキする。静佳さん来てくれるかな)  嬉しさと不安をソーヤは抱えていた。デートの約束をしてくれたが、相手は学校でも一、二を争うほどに人気のある先輩。孤独を愛しているのか、いつも一人でいるような人だ。そんな人が本当に自分を待っていてくれているのか、ソーヤは不安に思っていた。もしかしたら、良いようにあしらわれただけかもしれないと。 (ううん!そんなことない!静佳さんは、誰かをバカにして楽しむような人ではないわ!)  そのような、陰湿な嫌がらせをするような人ではないことはソーヤが一番よく知っていた。彼と少しでも近づきたく、彼がよく足を運んでいるという地元の小さな喫茶店を探し当て、そこのマスターにアルバイトとして雇ってもらった。そこのマスターはいい人で、今日がソーヤのデートだと知ると簡単に休みをくれた上、臨時ボーナスと称して、デートに必要な小遣いを少しばかりくれた。そこまでしてくれると人と彼は知り合いなのだから。悪い人なはずがない。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!