その2

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 静佳はさっきからずっと気が休まらずにた。“デート”というものが、ここまで過酷だとは予想していなかったからだ。単に一緒に歩くだけでいいと思っていたのに、ここに到着するまでの間に神経をかなり磨り減らされた。 「・・・静佳さん。大丈夫ですか?」  気分が落ち着かない静佳を心配してソーヤが声をかけてくれるが、それは余計に彼を落ち着かせなくする。 「大丈夫だ。ソーヤ。それより、ほら庄内の魚が」  二階の一角に設けられた淡水魚と海水魚を見ることができるコーナーを最初に立ち寄った。人工的に創られた淡水と海水を数十種類の魚が泳いでいた。背景も庄内周辺を再現し見る人に魚を紹介すると同時に庄内平野の魅力を宣伝しようといううまいやり方である。ソーヤは水族館に来るのは初めてだったのか珍しそうに水槽を覗きこんでいた。水草が揺らめき天井のLEDライトが水面に反射する。チョロチョロと流れる水音も相まって聞いている分には心地が良かった。  楽しむソーヤの顔を見てて、チクリと胸が痛くなった。まるで、この時がすぐにでも終わってしまうのではないか。そんな悪い予感を思ってしまい。 「あ、あの静佳さん。そ、そろそろ、クラゲウムに行きません?」  水槽の魚を楽しんだソーヤは恥ずかしそうに静佳に言った。  そうだ。模歌水族館のメインは地元の魚を見られたり、触れられたりするところではない。  マスコミにも取り上げられた世界中のクラゲを集めたコーナー、クラゲウムがここのメインなのだ。  マスコミに取り上げられるほどに話題を呼んだクラゲウム。どんな幻想的な光景を見せてくれるのか。静佳も少し楽しみにしていた。  明日香は困っていた。  夢葉からの連絡はなく、まだ自分の出番はないと思い逢魔の狭間で模歌水族館の見学をタダでしていた。少しは楽しめるかっと思ったけど、実際のところは全然、楽しめていない。館内は照明がつけられているので明るかったが、肝心の魚やクラゲが灰色のままである。現世に存在している者が灰色に見えるのは仕方ないことであるが、まさかクラゲまでもがと明日香は思った。ただ、ガラス関係は通り抜けることができるので。水槽の中に手を入れて、水槽の内側にある水の感触を楽しむしかない。
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