0人が本棚に入れています
本棚に追加
朱月川に掛かる朱大橋を越えると夕海高校前のバス停が見えてきた。麦わら帽子の鍔を少し上げて見るとバス停の屋根下に彼がいた。いつものようにスマホでweb小説を読んでいる辻利静佳だ。
(夢じゃない!私、本当に静佳さんとデートが・・・!)
ソーヤは嬉しくなると同時に恥ずかしくなってきた。静佳に会う前に一度、手鏡で顔を確認してみる。緊張で顔が赤くなって、せっかくの化粧が意味を無くしていないかを確認する為に。
バイパスに架けられた朱大橋。その袂から緊張して鏡を見てたソーヤを見つめる瞳がいくつかあった。それは全部で八つあり、二組のグループに別れていた。
一つはソーヤの同級生である一保美(ひと やすみ)と一つ上の先輩、那須亜華火(なす あけび)の二人である。二人はソーヤに気付かれないようにサングラスと帽子を被り、物陰より彼女の様子を伺っていた。
「亜華火さん。よいよ、ソーヤの初デートですね。なんだか、私まで興奮してきましたよ」
保美は鼻息を荒くして、今にもカメラでソーヤの様子を隠し撮りしそうだったが、それは亜華火に制止された。
「保美。これは、あくまでオカルトクラブとしての取材なのよ。ソーヤは偶然、取材先に居ただけという設定なんだから」
夕海高校の伝統ある『オカルトクラブ』を引き継いだ二十六代目部長にあたる亜華火は興奮する保美を宥めて言う。これはオカルトクラブの部活動なのだ。ソーヤのデートを隠し撮りしたくて着いていくのではない。その点はキッチリ、弁えなくてはならない。
今回のクラブ活動は、模歌(もか)水族館に現れるという幽霊を撮影するのが一番の目標なのである。その撮影の課程で、偶然、デート中のソーヤが写り込むのはよくある話だ。。
名目上はクラブ活動ということで行動している保美と亜華火のコンビ。そんな二人とは、別に行動する者がもう一組いた。
最初のコメントを投稿しよう!