その1

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「明日香先輩。準備はオーケーですか?」  いつものカチューシャの代わりにサンバイガーを装着した静佳の妹、夢葉はインカムで明日香と連絡を取り合っていた。 「ええ。逢魔の狭間にいるわ。夢葉ちゃんの姿もちゃんと見えているわよ」  明日香は、どういう訳か同じ場所でも、現世と処世の間にある世界、逢魔の狭間から夢葉と連絡を取り合っていた。夢葉は逢魔や死者、属に言う幽霊を見ることができない。当然、逢魔の狭間にいる明日香の姿を見ることはできないので、逢魔の狭間にいても連絡を取り合うことができるように政府が開発した専用インカムで連絡を随時、取り合っていた。 「いいですか。明日香先輩!今日はいうならば、兄様にとっての天王山決戦のようなものです!私がプロデュースするデートが上手くいくかどうかで、兄様の対人過敏症がどうなるか。決まります」 「分かっているわ。私も、普段からツジリーの過敏症には困っていたのだから。少しでも改善すれば、それに越したことはないわ」  明日香は金曜日の夜、突然、夢葉か掛けられた電話を思い出す。  日曜日、後輩ソーヤと一日デートをすることが決まっていた静佳。人に触れられるのが苦手だというに、そんな彼が選んだ初デートの場所が水族館だという。何を考えているのか、夢葉と同じように明日香も電話で受け答えをしながらツッコミを入れたぐらいだった。 「兄様は私と明日香先輩が来ていることは知りません。私は現世から!先輩は狭間からそれぞれ、サポートをします」 「ええ。逢魔の狭間を私利私欲の為に使うのは少し気が引けるけど、これも辻利家の未来の為だもんね!きっと、父さんも母さんも許してくれるはず」  明日香はそう自分に言い聞かせて、これからやろうとしていることを正当化させようとした。逢魔を見ることができる静佳に明日香は姿が目撃される危険はあるが、彼女の主な役目はソーヤをサポートすることにある。少しでも静佳に近付けるように手助けをするのだ。  まあ、明日香も名目上はであるが。本心は、他の人と同じように静佳とソーヤのデートを楽しむつもりでいた。
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