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「ハヒィ?」
「い、いえ!な、何でもありません!何でしょうか?」
「悪いけど、もう少し寄ってもらえない?少し狭いのよ」
少女はガムを噛んでいるのかクチャクチャと口を動かしていた。イヤホンを耳につけて音楽でも聴いてた。外見はちょっとした不良風に見える。
バスは少女が言うように、模歌水族館に行こうとする客で混み合っていた。だけど、後部座席はソーヤが詰めなければならないほど、狭苦しく詰まってはいない。
少女は不機嫌そうに、
「寄ってよ。狭いし暑いんだから」
半ば強引にソーヤを押して少しでも静佳と密着させようとした。
サングラスをかけ不良のように振る舞っているが、少女は夢葉である。少しでも静佳の対人過敏症を治す為に荒療治であるが、人と密着する機会をわざとつくろうとしていた。
(あ、あ、ああああ!)
ソーヤは静佳とさらに密着しようとしている自分に心の中で悲鳴を上げていた。誰にも聞こえない心の悲鳴である。
そして、静佳も心の中では、悲鳴というか絶叫を上げていた。
(や、ヤバイ!なんで、急に密着して・・・!)
ソーヤに密着されるのをどうにかして避けようと静佳は左に身体を寄せようとする。隣の客には悪いが、少し左に寄ってもらうしかない。
しかし、静佳の考えは甘かった。彼の左に座っている女子はソーヤの初デートを夢葉とは別視点で成功させようとしていた。自分達の方に静佳が少し身体を寄せてきたのに気付くと、
(保美。今よ!)
(はい!)
互いにアイコンタクトを取り頷き合うと、
「バスが揺れる~」
海岸沿いにバスが走っているとはいえ、ある程度、整備されたバイパス。ここで、バスが横に揺れる訳がないのだが、二人は白々しい演技で自分達に寄ってきた静佳を逆に、押し返そうとした。
(な、何を!)
両方から人に押されて静佳はおかしな体勢になってしまう。素肌が触れないように両手を上げ、まるで逮捕される寸前のような人だ。混み合っている車内ではつり革に掴まっている人がいるので静佳が目立つことはないが、端から見ればかなりおかしな光景に見えた。
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