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緊張と対人過敏症による発作で、静佳は顔面蒼白、額からは汗をダラダラ、流して棒立ちのまま固まり身動き一つとれずにいた。人に触れられるのが苦手だというのに、ただのデートで何故、こんなことになってしまったのか。
(兄様やるわね)
決して素肌では人に触れようとしない静佳を夢葉は怪訝な顔で見る。苦手を克服させる為の計画だというのに、静佳があそこまで抵抗するとは思ってもいなかった。
(やっぱり、やり口が甘いのかしら。本当は危険だから、あまりやりたくなかったけど)
夢葉は悪そうな顔をすると、ソーヤがただのイヤホンだと思っていたインカムを使って明日香に連絡を入れる。
「明日香先輩?“特等席”の調子はどうですか?」
「・・・・」
返事がなかった。
「明日香先輩?」
「・・・最高よ・・・見晴らしもいいし、風が少し強いのが難点だけど」
「それは良かったです」
「・・・・」
「明日香先輩?」
さっきから明日香の様子がおかしかった。どこか不機嫌で、怒りを抑えているような声だ。単に風のせいで雑音が混じってて声が聞こえないだけかもしれないが、時々、明日香は無言になる。
「ねえ。夢葉ちゃん。私の“特等席”。わざと、ここを選んだの?」
「何のことですか?」
夢葉は今、明日香が置かれている状況を知ってか知らずか惚けた様子で聞き返してくる。
「・・・で、私は何をすればいいのかしら?」
明日香は不満をひた隠し次の指示を夢葉に煽る。
「次はですね。ちょっと、車内を覗いてもらえませんか?うまくいけば、それで十分です」
「分かったわ」
明日香は夢葉に言われるがまま、車内を覗きこんだ。怒りを抑えているが表情に滲み出た、その顔で。
「あら?あれは、何かしら」
「え?」
夢葉はわざとソーヤに聞こえるぐらいの声で、何気なくバスのフロントガラスに目をやった。あくまで、偶然を装って。たまたま、見かけたように演じてみせながら。
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