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その紙が持つ意味とは真逆な印象を与える、味気ない茶色のインク。事務的で無機質な字体で書かれた文字は……
婚姻届。
広げて更に目を瞠った。その婚姻届けは、翠が書く箇所を除いて全て埋まっていたから。
「うち……行ったの？ いつ？」
「内緒」
翠の口から零れた言葉を、真一郎ははぐらかす様に笑う。
保証人の欄。真一郎の父親の名前の隣に書かれているのは、翠の父親の名前で、その文字は間違いなく父の自筆。
翠の知らない間に真一郎が翠の実家を訪れたのは明白だった。
「今日、お前に渡すのは伝えてある。出すタイミングをお前に任せることも」
出すタイミングという言葉に、改めて渡された婚姻届に記された父親の名前に視線を落とす。
翠は両親から何も聞いていない。だけど、これを書いてくれたという事は、いつでも籍を入れても良いという事なのだろう。
「いつでもいいの？」
翠の問いに、「10年も待たされるのは嫌だけど」と真一郎は冗談めかして笑って続けた。
「なんなら、今からでも」
「……今」
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