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「まさか、出してないっすよ」
出しときゃよかった。
俺がまだ29で、翠が17の頃に。
隣で泣いてる翠を、抱きしめてやればよかった。
無防備に眠る翠に、キスの一つでもしとけばよかった。
だけど、翠の抱えた傷を思うと、何一つ強引なことは出来なかった。
バレンタインや卒業式においていった翠の気持ちと、ぱったりと会いに来なくなった翠の行動と、どちらを信じて良いのかわからなかった。
翠が高校二年の夏休み前に、成り行きで付き合うことになった男子生徒を、尋常じゃない様子で拒絶したのを見ていたからなお更。
俺を待っていないということは…会いたくないという意味に感じられて、どうしても…翠ときちんと向き合えなかった。
それでも、向き合っておくべきだったのだろうと、今は思う。
ちゃんと向き合っていたなら、今の関係がどうなっていても納得できるものだったはずだ。
仮にもう会うことがなくなっていたとしたって、健さん相手にこんなとこで腐ってたりなんてしないだろう、そう思った。
「ふぅん、でもまぁそんだけ相手が年下なら…
人のモンになってないなら、どーにかなるんじゃねぇの?」
そんな言葉を他人事のような気分で聞きながら、グラスに残っていた酒を喉に流し込んだ。
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