episode1 紫煙の向こう

13/17
前へ
/496ページ
次へ
----- しとしとと静かに雨が降る寒い夜。 翠と初めて会ったのも…こんな雨の日の夜だった。 最近は、ベランダでぼんやり紫煙をくゆらす事が多くなっていた。 一ヶ月で一箱無くなるか無くならないか、その程度のペースで減る煙草。 煙草を吸うというより、煙草が炭化していくのを眺めているのが正しいかもしれない。 意識しなければいつまでも深みにはまる思考に、煙草が燃え尽きる時間で区切りを付けているだけ。 最近、ほんと…駄目だ。 もうすぐ翠が卒業して5年になるのに。 それなのに、こんなにも…昨日のことのように思い出す。 毎日相手をする高校二年生頃の生徒達は、当たり前だけど記憶の中の翠と同い年の17歳だし。 毎年同じことを繰り返す学校行事は、否応無く、翠と過ごした時間を思い出させる。 雨の降る夜には翠の怯えた瞳を思い出す。 思い出すたびに…今も泣いていないか心配になる。 あの子は、1人で溜め込みがちだったから。
/496ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2145人が本棚に入れています
本棚に追加