episode1 紫煙の向こう

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「翠」 一度も呼んだことのなかった名前を、ふと口に出してみる。 消そう。 ポケットに入れてあったスマホを取り出して、アドレス帳を開く。 もう5年も使ってない連絡先だ。 消したって何も変わらないはず。 なんかあったら連絡しろって言っておいた。 それで5年も何も言って来ないんだから、あいつは俺の事なんてもう忘れてる。 そもそも翠の携帯の番号が変わってる可能性だってある。 俺だけこんなに気にしてるなんてばかばかしいだろ。 “連絡先を一件削除しますか?” その表示を見ながら、少しだけ迷う。  『人のモンになってないなら、どーにかなるんじゃねぇの?』 卒業してもう5年も経った。 男嫌いを克服して好きな男の腕に抱かれたか? それとも…まだ1人で、泣いてるか? 後者を、願ってしまう自分に自嘲気味に笑ってしまう。
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